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基調講演(2):「文字・活字文化振興法」シンポジウム(6)

山崎正和氏による基調講演の続きです。
例によって発言の正確さは保証しませんから、細かい揚げ足取りなんかには使わないでくださいね。
(もっと正確なのは後日読売新聞やYomiuri Onlineの「21世紀活字文化プロジェクト」のページなんかに掲載されるでしょうから、そちらをご参照ください。)

(続く)
・この法案は、まことに時宜にそったものである。国家の教育にとって最も大事な法律と考える。
・国家が個人を教育した歴史はそんなに長いものではなく、百数十年の歴史でしかない。それ以前は、親や職場、寺子屋などで教育を受けていた。
・国家が国民に与える教育には、まったく異なった2つの要素がある。ひとつは「統治行為」で、警察や裁判所があるのと同じである。国民が文字を知らなかったら、よい政治をしたくてもその方法がなくなる。話にならない。もし言葉がバラバラなら、それは社会とは言えなくなる。「1+1=2」という単純な論理の共通性がなければ、社会は成立しない。したがって、最低限の良識を共有しなければならない。したがって、国家は国民に教育を強制できるのである。日本人なら日本語を覚えてくださいよ、そういうことで、義務教育・強制教育を施している。9年間という期間は時代とともに代わってくるし、その中身も大きな議論の種になっている。
・2つめは、国民一人ひとりが自己実現していくための援助である。
・日本語の文法を教えるのは義務教育だが、文学を教えるのは強制にはなじまない。こちらは、自由に個人に選択させながら、それを援助するという方法である。それがやがて回りまわって社会の得になる。優れた発明や芸術作品が生み出されるなどして。この2つめのものは、「サービス」である。
・この2つの要素の線をどこで引くかは問題である。近代化前の日本の教育では、食事前に手を洗うことを教えていた。そうしないと伝染病が流行り、国家の損失となるから、教育する方が安上がりなのである。ところが今や、義務教育に入れる必要はなさそうである。このように、義務の中身はずいぶん変わっていくが、絶対に変わらないのは日本語である。
・国語が成立していない国、例えばアフリカでは何百もの言語があり、インドでは何十もの言語があるが、それらの国の政治のあり方としては難しいものとなっている。したがって、国家は国民にきちんとした日本語を教える権利があり、国民には教わる義務があるのである。
・言葉の本質は「書き言葉」である。話し言葉を育てると書き言葉になるとか、話し言葉を乾燥させると書き言葉になるという意見もあるが、そうではない。
・話し言葉は、話すことで「効果」を与えるために存在する。しかし、もっと効果的なのは、なぐったり、何かを差し出すことである。アントニーがシーザーの死骸を見せたら聴衆が興奮したように、モノを見せるのが一番効果的である。効果が最も優れているのは、しぐさや表情やモノである。
・書き言葉は、自分の気持ちをきちんと組み立てて整理し、相手の解釈に委ねる。そして誤解があれば、書き手が責任を負う。
・民主主義は、民衆を政治家が操作するのではない。手法としてはよいが、全体としてそうされては困る。自分の考えを提示し、じっくり考えてもらって解釈させるのがよい。
・したがって、書き言葉を国民に身につけてもらうことを強制するのは当然のことである。読まないのは読まなくていいような教育をするからそうなるのである。戦後の作文教育は、「何でもいいから思ったことを自由に書きなさい」と教えた。ところが子どもは、「モノの思い方」を知らない。思うためには「道具」が必要である。これが「言葉」である。同じ風景をみて、「夕暮れ」と表現するか「たそがれ」と表現し分けるには、「夕暮れ」「たそがれ」が違うことを知ることが大事である。すなわち、道具を使ってモノを感じるようになるのである。
・最初は強制になる。道具を与えないで野球をさせてはケガをする。強制するのは国民の利益になる。人生の大部分の技術は、強制によって得るものである。楽しくなるには時間がかかる。音楽や野球も、楽しくなるのは時間がかかる。まして日本語おいてをやである。
・日本は考え方の多様性について寛容である。宗教にもそうである。もはやイデオロギーの時代は過ぎた。国民は自分の物差しで計る。すると多様な文化がある。多様な国民を統合するのは何か。宗教やイデオロギーという国もあろうが、日本はそうではない。言葉である。
・そう考えたとき、この法律は時宜にかなったというよりおそらく遅きに失した感がある。超党派で決めていただいたのはありがたいことである。(以上)

[パネルディスカッションに続きます]

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