基調講演(1):「文字・活字文化振興法」シンポジウム(5)
次は、山崎正和氏による基調講演です。
例によって発言の正確さは保証しませんから、細かい揚げ足取りなんかには使わないでくださいね。
(もっと正確なのは後日読売新聞やYomiuri Onlineの「21世紀活字文化プロジェクト」のページなんかに掲載されるでしょうから、そちらをご参照ください。)
○基調講演「活字文化と民主主義」 山崎正和(劇作家、東亜大学学長)
・シェイクスピアの戯曲の中で唯一、「ジュリアス・シーザー」が政治、民衆の政治をテーマとした。シーザー暗殺後、山場に入り、市民を集めて演説会が行われる。ブルータスとアントニーが演説をする。大衆に訴える話言葉としては世界的に傑作だと思っている。この演説は非常に有名なものである。
・この演説は、本質は書き言葉であるが、舞台では話し言葉であるかのように書いている。ここでシェイクスピアは、話し言葉の怖さを例証してみたのである。
・ブルータスは、自分がどんなにシーザーを愛しているのかを演説した。そして、独裁者になったから殺した、私も独裁者になったら殺してくれ、と言うと、群集は「そうだそうだ」とはやし立てた。
・次のアントニーの演説も名演説。私はシーザーをかばうつもりも指摘するつもりもない。しかし考えてみてくれ、シーザーはこれだけ我々によいことをしてくれた、というと、群集は「そうだそうだ」と興奮する。そして最後に、「これを見てくれ。この傷はブルータス!」と、シーザーの死骸を見せながら言うと、群集は「ブルータスは人殺し!」と叫ぶ。そしてシーザーの遺書を見せ、「遺産は市民のものになる」と言う。すると群集は、「ブルータスを殺してしまえ」・・・となって、おしまいである。
・ここで示されていることは、人々の感情を煽動する政治である。人々にじっくり考えさせずに興奮させ、賛同を求める、少しも余裕を与えずに・・・。そして最後には、言葉ではない。それを見せると興奮する。
・こういう政治的技法は時には必要と私も思う。民主主義の政治においては避け難い。ただ、唯一の方法として傾くとどうなるかを示したのである。
・恐ろしいファシズムのリーダーであるヒトラーは、ラジオで絶叫して興奮させた。今聞くとどうということもないが、ラジオというメディアが目新しかったことと、当時の社会情勢のもとにおけば、興奮したのだろうと思う。
・リンカーン大統領のゲティスバーグの演説は、実は短いものである。あの文章は、書き言葉で書き、それを覚えて演説したものである。政治的リーダーの演説は慎重に書かれる。専門家によって書かれ、大統領が読む。これは書き言葉で後世に残る。のみならず、受け取り手の心にも大きな変化を起こさせる。
・話し言葉は1対1のやりとりで、聞き手を1人にしない。その場で賛同を求め、意思形成を行わせる。これが話し言葉による民主主義であり、しばしばポピュリズム(民衆煽動主義)に陥りがちで、ファシズムにもなる。
・書き言葉はそうではない。書き言葉にするためには順序、段落を考え、どんな筋道で進めるかの意識に半分以上移っている。
・これが民主主義とポピュリズムを分けるものである。いったん1人にする、考える時間を与える、これが民主主義である。書き言葉は読み返して批評できる。読み返してみると8割賛成だが2割はどうだか、ということもわかるし読んでみると雑駁だということもわかる。これが本当の民主主義である。したがって、書き言葉が民主主義の根底であると考える。
(この項続きます)
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